2. E95の定義と影響

E95とは

E95とは

図1:E95とは

E95に関して詳細を説明します。図1には典型的なレーザのスペクトル形状を示します。ご存知のように半導体製造用に使われるレーザは、微細化のた めに紫外線の発光します。KrFレーザは波長が248 nm、ArFレーザは193 nmです。この波長はスペクトルの中心値で規定されています。従って、スペクトルとはその中心の波長からの広がりの幅のことです。

従来、レーザのスペクトルがCDに影響を与えることは、製造装置メーカー間では知られていたことです。ただし、スペクトルのどの部分が影響を与えや すいかまでは十分な知見がありませんでした。そのため、最も簡素な手法として、ピークの半分の幅をスペクトル幅として定義しました。半値全幅(FWHM) と言われる定義です。外乱などで発生するスペクトルの変動は半値全幅の変動が比較的良く模擬しており、過去においては、この幅を制御することでCDに対す る影響を抑制することができていました。

近年になって、新たなスペクトルの定義が生み出されました。これがE95であり、スペクトル純度と言われるものです。同じ幅の定義ですが、スペクト ル中の95 %のエネルギーが集中している幅のことです。この定義が生み出された理由は、NAの上昇、k1の低下に伴い、半値全幅のみの概念では十分にCD変化を模擬 できないからです。レンズの特性をシミュレーションするツールの活用により、各種のスペクトル形状とレンズのコントラストが計算され、最もコントラストに 影響を与えるファクターとしてE95は定義されました。

レーザにおいて、E95は制御が難しい性能の一つであると言われています。 その理由は、制御する以前に計測が困難だからです。図1に示すレーザのスペクトル形状において、 非常に強度が小さい裾野の部分の計測が必要とされています。そのため、かつてない高精度な分光器が必要とされています(E95の計測の詳細に関しては、以 後の章で扱います)。

E95の変動要因

E95の変動要因

図2:E95の変動要因

図2はE95の変動が起こりやすい条件を示します。 横軸にはレーザの稼動パルスを、縦軸はE95の大小を示します。

まず、一番目の変動要因としてガスが挙げらます(図中の要因1)。ご存知のようにKrFレーザでは、KrガスとNeガスおよびF2ガスの混合ガスが 用いられます。また、ArFでは、ArガスとNeガスおよびF2ガスを用いています。この混合比率により、レーザの性能は大きく左右されます。このためエ キシマレーザにおいては、ガスの制御が重要な技術の一つに位置づけられます。一般的なガスの制御は、出力パワーを一定に制御するものです。レーザのガスが 封印されているチャンバの中では2本の電極間に1秒間に数千回近くも強いパルス放電が繰り返されます。この放電によってガスは徐々に劣化していきます。特 にF2ガスは反応性が高いことから、その濃度が薄くなっていく傾向をもち、出力パワーを低下させていきます。これは露光装置のスループットを左右すること から、重要な問題となります。

この場合、F2濃度の低下が原因で出力パワーが低下することから、元の出力パワー以上に戻すよう、F2ガスを注入することが有効です。しかし、この F2濃度がE95に影響を与えることが最近の調査で明らかとなりました。レーザは出力パワーの低下を補うため、F2をどんどん注入していきますが、濃い F2はE95を大きい方向に変化させてしまいます。レーザのガスは1週間に1回程度交換されます。ガス交換直後は理想的なガス混合比率になっているため、 E95も小さくCDも設計値どおりとなります。しかし、出力パワーを中心としたガスの制御では、F2の濃度が徐々に濃くなるため、E95の値も大きくなっ ていきます。よくある事例として、ガス交換直後と直前でCDが変化することが挙げられます。ガス交換直前はF2が濃いため、E95が大きくなり、CDがプ ラス側にバイアスを持つことが原因です。従って、ガスの劣化が顕著なガス寿命末期がE95にとってクリティカルなタイミングであると言えます。

二番目の変動要因としては、長期に亘る光学系の劣化が挙げられます(要因 2)。レーザにおいて狭いE95を実現するには、狭帯域化モジュール(LNM)を用います。LNM中にはプリズム、グレーティングなど複数の波長分散用の 光学部品が配置されており、このモジュールを介することで広いE95が狭くなります。LNMは露光装置の照明系と同じように、長期間に亘り強い紫外光に晒 されるため、ひずみであるとか透過率の低下により、徐々にその性能が低下していきます。この過程において、E95は徐々に広がっていく傾向を示します。長 期間に亘りCDが変化する要因の一つがE95の変化であり、露光装置側の照明条件の見直しが必要となります。現在LNMの寿命は20 Bplsを越えるところまでその性能が向上しており、年間10 Bpls消耗する一般的なユーザーにおいては、2年に亘りその影響を受けます。

三番目の変動要因としては、モジュールの交換タイミングで発生します。 (要因 3)。この変化は上記2つの変動要因のように徐々に変化するのではなく、一気に大きく発生するため、より深刻です。現象としては劣化したモジュールによる E95の広がりが、新しいモジュールに交換されることにより、設計値に戻ります。大半のユーザーはレーザのモジュールによるCD変化を経験しつつ、その原 因を特定できず、露光装置側の条件変更によりリカバリーさせているのが現状です。異なる見方をすると、モジュール交換の直前は、広がったE95に合うよう に露光装置が調整されていることになり、解像度など重要な性能が犠牲にされていたことになります。