2. インジェクションロックのメリット

インジェクションロック方式のメリットとして安定した性能と、低いランニングコストが挙げられます。

まず、性能面に関しては前章でも触れたように、インジェクションロック方式では、アンプチャンバ両側に配置したミラーにより光が複数回反射されるため、 チャンバ内での光の存在時間が長くなり、アンプ側チャンバの放電開始のタイミングが比較的とり易くなります。この特徴から、最終的な出力の性能が安定化し やすいことがMOPA方式との違いです。
図2に、スペクトル性能の指標であるE95の安定性データの比較を示します。横軸が発振周波数を示し、縦軸が狭帯域用チャンバンプ用チャンバの発振タイミ ングのずれ(ジッター)を示しています。それぞれ、同じE95性能が得られる領域を色分けして表示していますが、インジェクションロック方式の方が、発振 周波数の変化に対してもジッターの変化に対してもE95が変化しにくいことが一目して分かります。

E95の安定性データの比較

図2 E95の安定性データの比較

逆にMOPA方式では、その変化が大きく、ジッター等の制御が重要な技術ファクターであることが分かります。MOPA方式では、ジッターを小さく抑 えるための工夫として、電力の供給を狭帯域用チャンバとアンプ用チャンバの両方に一つの電源からしています。ただし、電力供給量を調整して、エネルギー量 を安定化するエキシマレーザにおいては、いくつかの課題が残ります。たとえば、新しいチャンバと劣化したチャンバを同時に駆動することが難しいことなどが 挙げられます。

コスト面に関しては、インジェクションロック方式でのアンプ側チャンバの発振効率が高いことが低いランニングコストを実現することに貢献していま す。レーザのランニングコストの殆どの部分は、チャンバと狭帯域化モジュールなどの光学部品で発生しています。インジェクションロック方式の場合は、アン プ側チャンバの効率が高いため、狭帯域化チャンバからの出力を最低限に抑えることが可能です。

すなわち、狭帯域化チャンバからの出力を最低限に抑えることが可能です。弊社の試算では、長期間レーザを動作させた時のランニングコストは、インジェクションロック方式の採用において、MOPA方式と比較し、約40%近くコストを削減できる可能性があります。

このように比較すると、インジェクションロック方式はMOPAに対して優れているように考えられますが、リソグラフィ用の用途としては、大きな2つの課題が指摘されてきました。ASE(増幅された自然放出光)とコヒーレンスの課題です。