3. インジェクションロック方式の課題

従来のインジェクションロック方式は、空間的コヒーレンスの増加によるウェーハ面上でのスペックル発生の可能性と、増幅された自然放出光(ASE) による解像度の劣化の可能性が指摘されており、実現化を阻んでいました。ここでは、弊社のGigaTwin Platformにおいて、上記の課題を克服した内容に関して説明します。

従来のインジェクションロック方式(アンプ側)

図3 従来のインジェクションロック方式(アンプ側)

空間的コヒーレンスの計測結果

図4 空間的コヒーレンスの計測結果

空間的コヒーレンス低減化技術
レーザ光の空間的コヒーレンスとは、レーザのビーム面内の位相の良し悪しを定義したものです。リソグラフィ用には、空間的コヒーレンスが低い方が適 しています。これは、レーザビームが露光装置の照明系において、均一な照度分布をもつビームに整形される際、同じ位相をもった光が干渉しあい、むら(ス ペックル)ができるからです。スペックルはウェーハ面上で点在して現れるため、部分的な露光量の大小を発生させ露光パターンのサイズ(CD)を変化させま す。

従来のインジェクションロック方式では、アンプ側チャンバの増幅効率が高いため、狭帯域化チャンバの出力を最低限に抑えることが可能で、ビームのサ イズを数ミリまで絞り込みます。絞り込まれたシード光は、ほぼ均一な空間的な位相を持ちます。図3に、従来方式における、アンプ側チャンバへのビームの導 入方法を示しますが、絞りこまれたシード光は、小さいホールを通り、アンプチャンバ内でビームを徐々に拡大しながら出力を増加させます。従って、最終的に 得られるビームは、シード光が持つ均一な位相を受け継ぐことになり、空間的コヒーレンスが高くなります。

空間的コヒーレンスを低減させるため、GigaTwin Platformでは、狭帯域化チャンバからのシード光を絞り込むことなく、かつ、アンプチャンバにおいて高い増幅を行うための専用光学系を開発しまし た。工夫として、従来の方式より狭帯域化チャンバからの出力を上げ、ビームの大きさを最適化しました。図4には、従来のインジェクションロック方式、弊社 で開発した方式、及びシングルチャンバ方式で計測された空間的コヒーレンスの測定結果を示しています。横軸はビーム面内の距離を、縦軸は干渉性 (Visibility)を示しています。干渉性が大きいほど、空間的コヒーレンスは高くなります。この結果は、弊社が開発した専用光学系では、従来のイ ンジェクションロック方式より数十倍低い空間的コヒーレンスが実現されており、かつシングルチャンバ方式よりも改善されていることを示しています。

ASEの計算結果

図5 ASEの計算結果

ASE低減技術
レーザ光のASEとは、増幅された自然放出光を意味します。自然放出光はチャンバ内の放電と同一のタイミングで発生し、微弱で広域なスペクトルを持 つ光のことです。本来なら、光共振器中の光の往復過程において、主となる狭いスペクトルに紛れて、計測自体もできないレベルに低下します。リソグラフィに おいては、この僅かな広いスペクトル成分が、レンズの色収差の影響により、露光パターンに影響を与えると言われています。

従来のインジェクションロック方式でASEが課題と考えられていた理由は、シード光が導入されない状態で、アンプ側チャンバのみが動作した場合、広 いスペクトル成分が発生する可能性があったからです。この課題はインジェクションロック方式のみならず、MOPAおよびシングルチャンバ方式でも同じで す。

GigaTwin Platformの開発においては、実際のASEを計測する手法を開発し、定量化することに成功しました。また、実際のデータを元に低減化技術を開発しま した。その結果、ASEの量を左右するのは、シード光の光量が支配的であることであることを明らにしました。

図5に、シード光の光量を変化させ、かつ、アンプチャンバへの導入のタイミングを変化させたときのASE量の計測結果を示します。赤線のデータ (Low injection)は、可能な限りシード光の光量を絞ったときであり、従来のインジェクションロック方式のシード光の光量を模擬しています。観測された ASEは、出力全体の1%のレベルであり、実際の露光パターンにも影響が現れる可能性がある量でした。一方、シード光の光量を上げたMiddle injection,High injectionでは、0.01%以下までASE量を低減できていることが分かります。この結果は、既に実績があるシングルチャンバシステムと同等かそ れ以下であり、露光パターンにも全く影響を与えないレベルでした。