1. インジェクションロック技術

出力パワーへの要求
レーザの出力パワーへの要求は、レジスト感度、露光装置の光学系の透過率および同じく露光装置のステージ速度で決めらます。 KrF露光においてはレジスト感度が最大で50 mJ/cm2、光学系の透過率が15%程度、ステージ速度が最大で500 mm/sであり、 ここからくるKrFレーザの出力パワーへの要求は40 Wです。このレベルの出力パワーは、レーザ周波数の増加により充分カバーできる範囲です。
一方、ArF露光に関しては、レジストの感度はKrFよりも高く、ステージ速度は同程度です。 最も異なる点は光学系の透過率で、KrFの半分から1/3程度と低くなっています。 ArFレーザがKrFレーザと比較して、約2倍の高い出力パワー要求される理由の一つです。ArFレーザ自身も課題を持っています。これは、発振の効率の 低さであり、同じ電気入力をKrFとArFの両レーザにした場合、 レーザの光学部品の透過率の悪さも加担して、ArFレーザの発振効率はKrFレーザの半分程度です。 こうみると、ArFレーザはKrFレーザと比較して約4倍の技術的なハードルが存在することになり、 既存の周波数を上げるだけでの高出力化では対応できず、なにかブレークスルー技術が必要となります。

GigaTwinプラットフォーム
当社では、ArFレーザの高出力パワーへの要求に応えるべく、インジェクションロック方式を採用した、GigaTwin プラットフォームをブレークスルー技術として開発しました。この方式はレーザ装置中に2台のチャンバ(ツインチャンバ)を配置し、それぞれのチャンバに光 共振器を搭載し、一つのチャンバからは低出力の狭いスペクトルの光を発生させ、もう一つのチャンバにおいてそのレーザ光を増幅するものです。当社における インジェクションロック技術の開発は1990年代までさかのぼり、1993から1994年には通産省大型プロジェクトにおいて、200 Hz、300 WのArFレーザの技術を開発しました。また、2000年から2002年にかけて、ASETのF2リソグラフィプロジェクトにおいて、5 kHz、30 WのF2レーザの技術開発を実施した経緯があります。

インジェクションロックシステムとMOPAシステム

図1 インジェクションロックシステムとMOPAシステム

インジェクションロック方式とMOPA方式
図1に代表的なツインチャンバ方式のレーザシステムを示します。両方式ともに2つのチャンバを使用する方式ですが、決定 的に異なる点は、インジェクションロック方式ではアンプ用チャンバにも光共振器が搭載されていることです。そのため、アンプ用チャンバ自体も発振器として の働きがあります。
インジェクションロック方式の動作は、まず狭帯域化用チャンバが放電を開始し、狭帯域化モジュールとミラー間で光を共振 させることで、スペクトル幅の狭い光が形成されます(Master Oscillator)。その後、光搬送系を介してアンプ用チャンバに光が導かれ、タイミングを合わせて放電を開始します。アンプ用チャンバ内では放電が 継続する限り、光共振器により複数回光が増幅され、出力鏡から最終レーザ光が放出されます(Power Oscillator)。アンプ側に光共振器を配置することで、増幅の効果が非常に高く、狭帯域化用チャンバの出力が小さくても、充分に大きな出力が得ら れます。また、アンプ側チャンバ内での光の存在時間が長いことから、アンプ側チャンバの放電開始のタイミングが比較的とり易いなどのメリットがあります。
MOPA方式の動作は、狭帯域化用チャンバ(Master Oscillator)に関してはインジェクションロックと同じですが、アンプ用チャンバ(Power Amplifier)では光を増幅する回数が2回に制限されます。そのため、狭帯域化チャンバの出力はインジェクションロック方式の数倍が必要となりま す。また、アンプ用チャンバ内での光の存在時間が短いため、放電開始時間に依存して最終レーザ光の性能が変動しやすくなります。