取締役 常務執行役員
榎波 龍雄

榎波取締役は2017年6月に取締役に就任されて以降、経営企画部長、生産・営業・カスタマサポート・シンガポール管掌と、ギガフォトンビジネスの要所を担われ、また将来のギガフォトン像についても日々探索を続けられています。榎波取締役に、半導体業界について、組織のあり方やご自身の夢など、幅広くお話しを伺いました。

榎波さんは営業部長を長い期間経験されましたが、取締役・経営企画部長になられてからは、視点が変わられましたか?

はい、変わったと思います。以前は、現状のビジネス拡大が一番の関心事でした。日々、いかにレーザを販売し、それに伴う部品ビジネスを大きくしていくかということに注力していました。当社の売上・利益につながるものであれば、それを徹底的にやる、という考えは今も変わってはいませんが、取締役になってからは、「それをどう継続していくか?」ということに目を向けるようになりました。つまり将来の継続的な発展に、より関心を持つようになったということですね。今は、従来のリソグラフィ用光源の開発、販売ビジネスの「拡大」に注力する傍ら、一方ではこれまでと異なる新しい製品の開発、販売という「成長」のことも考えています。またそのためには、安全・コンプライアンスを最優先にすべきであると再認識しました。組織の拡大・成長はしっかりした土台・基礎があってこそ実現できることであり、素晴らしい製品を開発しても、一つの大きな不祥事で水の泡になってしまうことがあります。ギガフォトンのさらなる発展のためには、何よりも重要な事だと改めて思うようになりました。

今後の半導体業界はどうなっていくと思いますか。また我々はそこに対してどのような提案をしていくべきでしょうか。

2000年以降、半導体を牽引していたのはPCや携帯等の電子デバイスであり、それらが普及し終わったら半導体ビジネスは頭打ちになると考えられていました。しかしIoTのようなコンセプトの出現で、最近またそれが伸び始めました。IoTでは、半導体はスマホやPCといった大型の電子デバイスではなく、センサーとして使われます。例えば今座っているこの机にチップをつけて電波をとばせば、ここにあることが分かり棚卸しができますし、人体に埋め込んで検査や治療に利用することも可能と言われています。また安全のため子供に身に着けさせて位置確認ができる・・等々適用範囲は無限にあります。世の中にあるすべてのものにセンサーをつけましょう、というコンセプトなんですね。言い換えれば大型電子デバイスとは全く異なるアプリケーションが出現したということなんです。ICT(Information and Communication Technology; 情報通信技術)が更に加速して、無限に適用範囲が広がったというイメージがあります。

ギガフォトンの戦略としては、既存のリソグラフィ用光源事業に注力していくということでしょうか?

我々は半導体リソグラフィ用光源という1つの事業を20年近くやってきたので、今は次の事業を考える時期だと考えています。リソグラフィ用光源の種類が、水銀ランプ、KrF、ArFドライ、ArF液浸、EUV*と変遷するに従い、我々のレーザ光源もいずれは縮小するだろうと考え、この5年くらいはなるべく早く他用途向けに特化する必要があると考えていました。しかし、先ほどのIoTの広がりから、頭打ちの時期は少し先延ばしされたと思います。

開発中のEUVについてはどのように考えていますか。

EUVは、それより波長が短い実用的な光源はないので、遅かれ早かれ最終的にはEUVに辿り着き、恒久的に使われると考えています。ただし、ギガフォトンがビジネスとしてどのタイミングでやるかはまだ決定に至っていません。いずれにしてもEUVを通じて半導体業界に貢献していくことは大事なことですので、決して諦めず、腰をすえて開発していきたいと思います。

グリーンイノベーション(エコロジー)のような、機能の開発についてはいかがですか。

産業界に限らず、現代社会にとって「エコロジー」は永遠のテーマなので、それは続けていきます。当社では、今は本体の基本性能改善に力を入れている段階ですが、それが落ち着けばまた「エコロジー」に力を入れたいと思っています。今も、お客様の国の事情等で電力削減の要望は根強くあり、また資源の問題を考えれば電力は極力使わない方が良い事は自明なので、今後も取り組んでいきます。もちろんガス削減も同様です。

では、今後ギガフォトンはどのように進んでいくのでしょうか。

ギガフォトンができることは2つあります。1つは既存事業であるリソグラフィ用光源の強化です。現在のガスレーザを、固体レーザとのハイブリッドにするイノベーション、次にデータプロダクトによるユーザサポートの強化、およびEUVの実現、という具体的なロードマップを策定しています。
2つ目は、このコアコンピタンスであるギガフォトンのエキシマレーザ技術を他分野へ生かしていくということです。アニール用、小径加工用の光源開発から始めて、長期的には自社でシステムを開発するという構想があります。

ギガフォトンの強みは何だと思われますか。

特筆すべきところは、秀逸なビジネスモデルを完成させている所にあります。リソグラフィ用レーザの本体をOEMメーカに販売し、その後OEMのリソグラフィ装置と当社のレーザが組み合わされて、半導体メーカに設置される。そこからは、半導体メーカに部品を販売しています。レーザ本体は生産財であるため、使用期間が非常に長いのが特徴で、実際20年近く使って頂いているものもあります。したがって新規製品を販売すれば、市場での累積台数がどんどん増えていきますよね。通常、寿命等の長い高性能製品ができると、次の新規製品の販売を圧迫してしまう弊害がありますが、当社の部品ビジネスでは、そこに対してお客様のパルス消費に比例して課金を行っているので、市場にあるレーザの台数が多く、使用期間が長いほど売上が上がります。したがって長寿命な部品が開発できれば、その分が利益として還元されます。つまりギガフォトンのビジネスモデルでは、製品開発の方向性と収益の方向性が一致しており、どんどんチャレンジできる恵まれたビジネスモデルなんですね。
また、社員の良いところとして、ビジネスに対して真摯な姿勢をもっているということがあります。コンプライアンスの話と繋がりますが、「不当な利益」を追わないということです。当たり前のことですが、これが会社を継続させる秘訣だと思います。

今後、さらに会社が成長するには何が必要だと思いますか。

多様性を求めたいですね。色々な国、考え方、の違う人が集まった集団になってほしいです。これまでは日本人だけで集まって「これがいい」としていましたが、今やお客様の9割近くは海外の方なんですよね。合うはずがないんですよ。そういう意味で日本人以外の人の意見を盛り込んだ製品開発だったり、ビジネスデベロップメントだったりを強化していきたいです。確かに製品自体はグローバル化されており、世界のどこに持っていっても使えますから、ある程度日本人が考えたもので通用しています。しかしサポートとなると少し話が違う。日本のお客様にやっていたサポートでは世界中のお客様を満足させられないんです。何故なら「稼働率重視」か「性能重視」かなど、国によってお客様が求めているものが違うからです。だから韓国には韓国に合った、台湾には台湾に合った、中国、欧米も同様で、それぞれの国やお客様に合った、サポートの仕方があるはずなんです。そういう意味で数年前から始めた、各国のフィールドサービスエンジニア(FSE)が他の国に行くという、One GIGAPHOTON体制というやり方は、FSEが国によってお客様が求めているものが違うことを肌で経験できるのでとても良い仕組みだと思います。今後は現場だけでなく法律等の違いも見越したサポートや開発が鍵になってくると思います。

コンプライアンス管掌役員として、法令遵守、内部統制等についてのお考えをお聞かせ下さい。

ここ2、3年はギガフォトングループ全体で内部通報を含めたコンプライアンス事案が増加しています。従業員が増加したことも要因ではありますが、私は、これは従業員のコンプライアンス意識が向上したからだと、ポジティブに捉えています。コマツグループには“No news is bad news.” という考えがあって、悪い情報ほど早く報告することが奨励されていますので、コマツの行動基準に沿ったコンプライアンス教育が浸透してきた結果だと思っています。長年教育や経験を積んで育った人が、コンプライアンス問題で退職してしまうのは、会社にとって大きな財産を失うことであり、非常に残念なことです。ですから、まずはコンプライアンス問題を起こさないことが一番大切で、そのためには、起きない工夫、仕組みが必要です。そして、つきつめていくと重要なキーになるのは、やっぱり教育だと考えています。ギガフォトンでは2017年度からワークショップ形式のコンプライアンス教育を実施しています。これはドラマ形式のコンプライアンスDVDを視聴した後、個々が自分の身に置きかえて考え、グループでディスカッションし、自分ならどうするかを発表していくというものです。参加者が真剣に取り組み、意識の向上が見てとれる非常に良い取り組みだと思いますので、今後も継続して実施していきたいと思います。また教育と併せて、会社側のコンプライアンス案件の解決能力も重要です。私自身もしっかり勉強して、他部門とも協力して能力を向上させていきたいと思います。

最後に、榎波さんの今後の夢を教えて下さい。

仕事に関しては、ここまで述べたように、会社の安定した成長を実現することです。ギガフォトンには50年~100年の企業に育っていってほしいですからね。
あとは長年学んでいる経営学の勉強を継続し、良い論文を発表したいです。私達のビジネス分野であるリソグラフィ装置は、これまで世の中で作られたものの中で最も精密な機械であり、これ以上のものは世の中にはないと言われています。その歴史がどうなっているか、何がビジネスの結果を決めるのか、それに関わる者として形にして残しておく義務があると思っています。ギガフォトンは来年創立20周年を迎え、20周年プロジェクトも始動していますが、そういう意味でも会社の社史をしっかり作って、みんなの努力の跡を残したいと思います。プライベートでは、絵画鑑賞が趣味なので海外の美術館巡りを再開できたらと思います。以前はよく行っていたのですが、最近は中々時間がとれないのが残念です。特にロシアのエルミタージュ美術館はまだ行ったことがないので、是非訪れたいですね。

*EUV ー 極端紫外線(EUV)と呼ばれる非常に短い波長(13.5 nm)の光を用いるリソグラフィ技術であり、EUV光源を用いることで、より微細な加工が可能となる。